「焼入れ」 × 「研削」で長寿命・低騒音を実現!

大きいトルクや精度が求められる歯車では、単に形状を仕上げるだけでなく、「焼入れ」や「研削」といった工程が必要です。これらの処理によって歯車の耐摩耗性や疲労強度、静音性などが向上し、長期にわたり安定した性能を発揮します。本記事では、焼入れと研削が歯車にどのような効果をもたらすのか、そのメカニズムと効果をわかりやすくご紹介します。

1.焼入れとは?

焼入れとは、主に鋼材を高温(おおよそ800~900℃)まで加熱したのち、急冷することで表面を硬化させる熱処理の一種です。主に歯車表面に強い硬さと耐久性を持たせる目的で行われます。
歯車に強度が求められる環境下では、単なる切削仕上げだけでは摩耗や疲労破壊が避けられない場合もあります。そこで焼入れを施すことで、高硬度かつ高耐久な歯面を形成し、歯車全体の信頼性を大きく向上させることができるのです。

2.焼入れの種類と特徴をご紹介

今回は代表的な焼入れをご紹介させていただきます。焼入れは、処理後の硬度(HRC値)や深さ、変形量に違いがあるため、製品の要求寸法などを満たせる処理を選択する必要があります。

1)高周波焼入れ!

高周波焼入れ(誘導加熱焼入れ)とは、コイルから発生させた高周波電流で金属表面を急速に加熱し、その後すぐに水や油で急冷することで硬化層を形成する熱処理方法です。歯車に対しては、主に歯面のみを硬化させる目的で用いられ、摩耗に強く、かつ内部に粘り(靭性)を残すという理想的な特性を実現できます。

2)浸炭焼入れ

浸炭焼入れとは、低炭素鋼の表面に炭素を浸透させた後、焼入れ・焼戻しを行うことで、表層のみを高硬度化し、芯部には靭性(粘り強さ)を保持する熱処理技術です。一般的には、炭素を含んだガス雰囲気中(ガス浸炭)で800~950℃に加熱し、所定の時間保持した後、焼入れ(急冷)して硬化層を形成します。その後、適切な硬さと内部応力の調整のために焼戻しを行います。

3)窒化処理

窒化処理とは、鋼の表面に窒素を拡散させて硬質な層(窒化層)を形成する表面改質処理、高精度・高耐久を求められる歯車において広く採用されています。一般に500〜600℃程度の比較的低い温度で数時間加熱し、窒素を表面に浸透させることで、高硬度かつ耐摩耗性に優れた表面層を得ることができます。

最大の特長は、焼入れと違って処理中の歪みや変形が極めて少ないことです。これにより、加工後の寸法精度を保持したまま耐久性を向上させることができ、歯研レスでも使用できるケースもあります。

3.焼入れ後の歪みや変形を補正する歯車研削とは?

歯車研削(通称「歯研」)とは、焼入れなどの熱処理後に歯面を砥石で精密に仕上げる加工で、歯車製造の最終工程として行われる仕上げ技術です。熱処理によって生じる歪みや変形を補正し、高精度な歯形・歯すじ・面粗度を実現するために不可欠な工程です。

歯研を施すことで、かみ合い精度の向上や低騒音化が可能となり、JIS 1〜4級に相当する高精度歯車に多く適用されます。特に産業機械、精密減速機、ロボット、航空機など、静音性・耐久性・高精度が求められる分野で広く活用されています。

4.まとめ

高い精度や強度が求められる歯車では、焼入れの後に歯車研削を行う工程が必要となる場合があります。ただし、焼入れ後の仕上げ工程が追加されるうえ、歯研は加工時間が長くコストも高くなりがちです。そのため、採用を検討する際には、事前に歯車メーカーへ相談することをおすすめしています。